神経障害と勃起機能の関係
勃起は、神経、血管、ホルモンの相互作用によって起こる複雑な生理現象です。
脳、脊髄、末梢神経が障害されると、勃起に必要な神経伝達が阻害され、勃起不全(ED: Erectile Dysfunction)につながることがあります。
1. 神経と勃起のメカニズム
勃起は、以下の神経系の働きによって引き起こされます。
(1) 中枢神経系(脳・脊髄)
- 視床下部や大脳皮質が性的刺激を処理し、勃起を誘導。
- 脊髄の勃起中枢(T11~L2、S2~S4)が興奮すると、末梢神経を介して陰茎の血管を拡張。
(2) 末梢神経(陰部神経・自律神経)
- 陰部神経(Pudendal nerve) → 陰茎への感覚伝達、射精に関与。
- 交感神経(T11~L2) → 平常時は血管を収縮させ勃起を抑制。
- 副交感神経(S2~S4) → 勃起時に活性化し、陰茎の血管を拡張。
神経が損傷すると、これらの信号伝達が妨げられ、勃起が困難になります。
2. 神経障害が原因のED
(1) パーキンソン病
- パーキンソン病は、脳内のドーパミン神経が変性する病気。
- ドーパミンは性欲や勃起を調節する重要な神経伝達物質。
- ドーパミンが減少すると、性欲の低下や勃起不全が起こる。
- 治療薬(L-ドーパ)で改善することもあるが、逆に副作用として性機能障害が起こることもある。
(2) 多発性硬化症(MS: Multiple Sclerosis)
- 脳や脊髄の神経の「ミエリン鞘」が破壊される自己免疫疾患。
- 神経伝達が遅くなったり、信号が途絶えたりすることで、勃起を引き起こす指令が陰茎まで届かなくなる。
- また、排尿障害や感覚異常(陰部のしびれ)も併発しやすい。
(3) 脊髄損傷
- 事故や外傷で脊髄が損傷すると、勃起中枢からの信号が遮断される。
- 損傷のレベルによっては反射性勃起(非自発的な勃起)が残ることもある。
- 陰茎に直接刺激を与えると勃起するが、脳からの性的興奮が伝わらないことが多い。
(4) 糖尿病性神経障害
- 糖尿病が進行すると、末梢神経がダメージを受け、勃起を引き起こす信号が伝わらなくなる。
- 陰部の感覚が低下し、性的刺激を受けても興奮しにくくなる。
- 糖尿病性EDは、血管障害も関与しているため、重症化しやすい。
(5) 骨盤手術や神経損傷
- **前立腺がんや膀胱がんの手術(前立腺全摘除術・膀胱全摘術)**の際に、勃起に関わる神経が損傷することがある。
- 神経温存手術を行っても、一時的にEDが起こることが多い。
- リハビリとしてPDE5阻害薬(バイアグラなど)や低周波治療を行うことがある。
3. 神経障害によるEDの治療
神経障害によるEDは、原因によって治療法が異なります。
(1) 生活習慣の改善
- 糖尿病や肥満がある場合、血糖値の管理や減量が重要。
- 適度な運動(有酸素運動・筋トレ)で神経機能を改善。
- ストレス管理(瞑想・マインドフルネス)で自律神経のバランスを整える。
(2) 薬物療法
PDE5阻害薬(バイアグラ・シアリスなど)
- 陰茎の血管を拡張し、勃起しやすくする。
- ただし、神経損傷が重度の場合、効果が限定的なことも。
ドーパミン作動薬(パーキンソン病治療薬)
- L-ドーパ、プラミペキソールなどは、性欲や勃起を改善することがある。
- ただし、副作用で異常性欲が出ることもあるので注意。
(3) 神経リハビリテーション
- 脊髄損傷や手術後のEDの場合、電気刺激療法(低周波治療)や陰圧式勃起補助器(VCD)を使うことがある。
- 陰茎リハビリ(定期的な勃起を促すトレーニング)で神経回復を促す。
(4) 外科的治療(重度のED)
陰茎インプラント(ペニスプロテーゼ)
- 薬やリハビリで効果がない場合、シリコン製のインプラントを陰茎に挿入。
- 機械式(ポンプ操作)と半固型の2種類がある。
神経再生療法(研究段階)
- 幹細胞治療や神経成長因子(NGF)を用いた治療が研究されている。
4. まとめ
脳、脊髄、末梢神経が勃起の指令を伝えるが、神経障害があると信号伝達が妨げられ、EDが起こる。
パーキンソン病、多発性硬化症、糖尿病性神経障害、脊髄損傷などが原因となる。
治療法は、PDE5阻害薬、ドーパミン作動薬、リハビリ、陰茎インプラントなど。
神経損傷がある場合、完全に回復するのは難しいが、リハビリや補助療法で改善の可能性がある。
神経障害によるEDは、医師と相談しながら適切な治療を選択することが重要です。

